
ベトナムドリアン歴史を紐解くと、もともとは東南アジアの島々が発祥のドリアンですが、今やベトナムではシーズンを迎えるたびに人々がこぞって買い求める「果物の王様」として君臨しています。
実は、ちょっと面白い事実があります。ドリアンはもともとベトナムの在来種ではありません。この「果物の王様」の先祖は、マレーシアやインドネシアといった東南アジアの島国あたりが出自なのです。しかし、この「わがままな令嬢」のような果物がベトナムの地に根を張り、食文化に欠かせない存在になるまでには、100年を超える長くて興味深いドラマがありました。
100年の渡来記:修道院の片隅からカンボジア王室へ
時計の針を1910年代へと巻き戻してみましょう。ドリアンがベトナムへ最初に足を踏み入れたルートには、どこかロマン漂う2つの逸話が残されています。
1つ目のルートは、現在のドンナイ省ビエンホア市タントゥイ地方へとつながる道です。あるフランス人の神父が、はるばるインドネシアから苗木を持ち帰り、試しに植えたのが始まりと言われています。ベトナム東部の気候と土壌が奇跡的に合致し、木はすくすくと育っていきました。
同じ頃、南部メコンデルタ地方(西部)でも動きがありました。グエン・ユイ・リュウという名の教師が、カンボジア王室で勉強を教えるために海を渡ったのです。そこで彼は、ミルクのように濃厚で甘い不思議な果物に出会い、その味にすっかり魅了されてしまいました。彼はその種を故郷であるベンチェ省カイモンに持ち帰り、地面に蒔きました。かつて一世を風靡した伝説の「ミルクドリアン(Sữa bò)」は、このささやかな縁から生まれたのです。
こうして、限られた裕福な家の庭の片隅や、垣根沿いにひっそりと植えられていたドリアンは、瞬く間にその存在感を広げていきました。100年近く経った1990年代末、ヴィンロン省のサウ・リー(Sáu Ri)氏が、果肉が鮮やかな黄色で種が小さく、濃厚でクリーミーな品種「Ri6」の品種改良に成功します。さらにタイから「モントン(Monthong / Dona)」種も導入され、ベトナムのドリアンはまさに黄金時代へと突入、多くの農家を豊かにする「億万長者の木」となったのです。
ドリアン栽培:「気難しい令嬢」を育てるということ

地元ではよく、こんな冗談が言われます。「ドリアンを育てるのは、気まぐれな令嬢をご機嫌とりしながらお世話するようなものだ」と。「日差しが強すぎてもダメ、雨が降りすぎてもイヤ、風を嫌い、霧を恐れる」。私たちが市場で高値で買うあの美味しい果実の裏には、農家の人々の数知れない徹夜の苦労が隠されています。
ドリアンの木は、雨季の水はけの悪さを最も嫌いますが、逆に乾季にはすぐに枯れてしまいます。開花の時期になると、農家の人々は夜通し起きて、小さなブラシを手に花の受粉を手作業で行います。そうしないと、実の形が不格好に歪んでしまうからです。さらに、実が卵ほどの大きさに育った頃、せっかく実ったものの3分の2を自らの手で間引かなければなりません。木が体力を使い果たしてしまわないよう、涙をのんで花や青い実を摘み取るのです。
それだけではありません。嵐の季節になると、実が重そうに実った木を見つめながら、農家の人々はハラハラと胸を焦がします。彼らは高い枝に登り、風で実が落ちてしまわないよう、1玉ずつ紐でしっかりと幹に結びつけていくのです。収穫の際にも、「ドリアン叩きの職人」と呼ばれるプロフェッショナルが登場します。彼らは小さなナイフで殻を軽く叩き、その「ポコポコ」「ボコボコ」という音の響きだけで、実が完璧に熟しているかを正確に見極めます。収穫がたった1日早いだけで、そのロットのすべてが台無しになり、それまでの苦労が水の泡になってしまうからです。
「高いが価値はある」驚きの栄養バランス
ドリアンは買うとなると確かに値が張りますが、その栄養価はフルーツ界でもトップクラスに「濃厚」です。「ドリアン1房を食べるのは、完熟マンゴー1個を食べるのと同じくらい?」そんな疑問を持つ人もいるかもしれません。

天秤にかけてみると、ドリアンの大きな1房(約100g)には約147カロリー含まれており、中サイズ(約200gで約120カロリー)のホアロックマンゴーよりも高カロリーです。糖分こそマンゴー1個分と同等ですが、良質な脂質やカリウムといったミネラルに関しては、ドリアンが圧倒しています。そのため、ドリアンを3房も食べれば、普通の食事1回分に匹敵するエネルギーを体に補給したことになります。
カロリーの話はおいておくとしても、ドリアンはメンタルにも良い効果をもたらしてくれます。ドリアンに含まれるトリプトファンという成分は、体内で「幸福ホルモン」へと変化し、心身をリラックスさせ、ストレスを和らげて質の良い睡眠を促してくれます。ただし、栄養がありすぎるものは逆効果にもなりやすいものです。体に熱がこもるのを防ぐためにも、1回に食べる量は1〜2房にとどめ、食べる前後でのアルコールや炭酸飲料の摂取は絶対に避けてください。
香りが引き起こす、嗅覚の二極化
ドリアンほど、世界中で「愛」と「嫌悪」をこれほど激しく二分する果物は他にないでしょう。好きな人は「うっとりするほど濃厚で魅惑的な香り」と言い、苦手な人(多くの欧米人や日本人など)は「悪夢のような匂い」と表現します。
科学的な研究によると、ドリアンが熟す際、2つの相反する化合物グループが同時に放出されることが分かっています。1つはキャラメルやハチミツのような甘い香りを放つ「エステル類」、もう1つは玉ねぎやニンニクのようなツンとした臭いを放つ「硫黄化合物」です。東南アジアや中国の人々は、幼い頃からこうした濃厚な風味に馴染んでいるため、脳が自動的に硫黄の臭いをフィルタリングし、甘くクリーミーなコクだけを感じ取ることができます。逆に、淡泊でさっぱりした香りに慣れている寒冷地の人々の嗅覚は、その強烈な硫黄の臭いに真っ先にノックアウトされてしまうのです。
私自身も、この果物に対してかなり一途なファンの一人ですが、少し変わった愛し方をしています。実は、香りは狂おしいほど大好きなのですが、食べるのはそれほど得意ではありません。というのも、完熟したドリアンには、味のバランスをとってくれる「酸味」や「渋み」がほとんどないからです。ひとくち口に含むと、強烈な甘みと油分が口いっぱいに広がり、私のように甘みに敏感な人間は、少し圧倒されてしまうのです。もしあなたも私と同じタイプなら、ぜひ「冷凍ドリアン」を試すか、濃いめの温かい緑茶と一緒に少しずつ味わってみてください。お茶の心地よい渋みがドリアンの甘みを中和し、信じられないほど美味しくいただけます。
火山の恵みロンカイン:至高の味わいが目覚める場所
ベトナムの様々な場所を訪れ、色々なドリアンを食べてきましたが、私の中で今でも王座に君臨し続けているのは、ドンナイ省ロンカイン(Long Khánh)の古代玄武岩(赤土)台地で育ったドリアンです。この「火の土地」では、ドリアンだけでなく、ランブータンやジャックフルーツ、アボカドも、どこか独特の深く濃厚な余韻を残します(もしあなたがこのクリーミーな味わいの虜なら、私が書いた「日本でのメキシコ産アボカドの体験と、ベトナムのアボカドへの恋しさ」の記事もぜひ読んでみてください。その違いに驚くはずです)。かつての火山活動によって蓄積された豊富なミネラルと、ベトナム東部の乾季の激しい日差しが、果実の糖度を極限まで凝縮させます。その結果、ロンカインのドリアンは水分でベチャつくことなく、まるで高級なバター(アボカド)のように、しっとりときめ細やかで濃厚な味わいに仕上がるのです。

しかし、面白い例外もあります。もし「マンゴスチン」を選ぶなら、私はロンカインのものは選びません。「果物の女王」であるマンゴスチンは、赤土の乾燥した気候には合わないのです。彼女が好むのは、ライティエウ(ビンズオン省)やメコンデルタの砂州(中州)のような、川沿いの湿り気を含んだ肥沃な泥土です。そうした場所で育ったマンゴスチンこそが、皮が薄く、果肉は雪のように真っ白で、上品な甘酸っぱさを持つ「本物の味」になります。
自然の営みとは本当に不思議なものです。それぞれの植物が、自らの最高の美しさを表現するために、ふさわしい土地を本能的に選んでいるかのようです。そしてドリアンは、100年を超える長い旅路の末、このベトナムの地を選び、誇り高き王権の物語を紡ぎ続けているのです。